「10代でも筋トレはしていいの?」(10代男性)
「運動部に所属しているけど、最近疲労が強い、生理もこなくて心配」(10代女性)
「初めてマラソン大会にでようと思うけど、家族からは無理しないようにと言われて」(40歳男性)
「糖尿病かもしれないと指摘されたけど、どんな運動をすればいい?」(50歳男性)
「初めての入院を経験して、今後もリハビリが必要と言われたけれど家で何をすればいいの?」(80歳女性)
年齢やライフステージによって運動に関する悩みは様々です。
健康と運動は切っても切り離せられない関係があります。健康とは、病気でないということではなく肉体的・精神的・社会的に満たされた状態にあることをいいます。人生100年時代を迎え、健康的に過ごせる寿命を延ばすためには、各個人の健康課題の多様化に対応できる健康づくりを示していく必要があります。当院では、年齢やライフステージを加味し、みなさまが安全に効果的に活動や運動ができるようにメディカルチェックという評価を行うことができます。
自費
基本検査
- 血液検査:血算一般
- 生化学検査:AST、ALT、γGTP、(LDH、ALP)、アルブミン、尿酸、クレアチニン、尿素窒素、CPK、鉄、血糖、HbA1c、LDLコレステロール、HDLコレステロールなど
- 尿検査:尿蛋白、尿潜血、尿糖
- 胸部X線写真
- 安静時心電図
- 体組成計検査
※貧血の精査で網状赤血球、フェリチン、TIBCを追加
※メタボリックシンドロームが疑われたら中性脂肪を追加
※甲状腺機能障害が疑われたTSH、FT4、FT3を追加
※肝障害が疑われたらLDH、ALP、総ビリルビンを追加
※骨粗鬆症が疑われたら骨密度検査を追加
メディカルチェック問診 P357 前期
・学童期・青年期の方
この時期の運動・スポーツは心身の成長発達に欠かすことのできないもので、成人以降の運動習慣の基礎となります。近年、小児においては積極的に運動を行うものとそうでないものの二極化がすすんでいます。安全に運動を行うためにも、検診での異常が指摘されている場合は専門科へ受診し、何か運動を行うにあたり不調がある場合は事前に検査を行う必要があります。特別なメディカルチェックというよりも、成長過程で問題がないか、喘息・てんかんなどの基礎疾患のコントロールを行う必要があります。
よくある問題点
- 心疾患
突然死のリスクがあり、学校健診で心疾患・不整脈の可能性を指摘された場合は専門科へ受診しましょう。運動管理区分を守る必要があります。
- 脱水症
小児は体重に占める水分量の割合が高いです。しかし、高熱や嘔吐・下痢などの病気を起こすことが多い上、適切な水分摂取が自分ではできなかったり、近年の高温化のため、脱水をきたすリスクが非常に高いです。水分と塩分の摂取が適切にできているか、熱中症予防の環境整備があるか確認しましょう。
- 栄養不足
エネルギー不足
成長期には、消費するだけでなく発育するためのエネルギーも必要とします。
鉄不足
運動では鉄を消費し、鉄分が不足しがちになります。
カルシウム不足
骨の発育や骨折の予防にカルシウムは不可欠です。
- 思春期の問題
過度の運動によっては、思春期の生理不順・二次性徴の遅れが起きることもあります。過度な栄養制限が関連している場合もあります。
- 整形外科的問題点
小児の運動器は発育過程であり、大人のミニチュアと考えてはいけません。骨は軟骨成分が多く、骨が成長しきっていない(骨端線が閉じていない)段階で筋肉・腱に負荷をかけると骨への付着部で損傷をきたす恐れや、体が硬くなる原因となります。過度の運動や不適切な運動方法でスポーツ障害を起こす可能性が高いです。一方、大人と同様に運動不足による肥満児の増加、筋力・バランス能力の低下が体力テストからも指摘されています。実は側弯症があったり、しゃがみ込みができないなどの運動器の異常が背景にある場合は、整形外科への受診を検討する必要があります。
・働き世代の方
加齢に伴い筋量の低下がおこりますが、働き世代である40代からの筋量低下も目立ちます。加えて、社会の変化により、交通機関の発達によって歩行時間が減り、IT革命でパソコンに向かう座位時間が増え、長時間労働などの多忙もあり、「運動する時間や習慣がない」人が増えています。さらに、コロナ禍においては、平日は在宅勤務で休日は出歩くことが減り、「動かない生活に慣れた」人も増えています。一方で、「こんな生活をしていてはいけない、運動を始めよう」と思い立ったり、「体重が増えて生活習慣病になってしまった」と危機感を募らせている方も増えています。
生活習慣の乱れがある方は、安全に運動を始める・継続するためにもメディカルチェック(検診)をうけましょう。
(歩行数と死亡率)
(インターバル歩行で効率的に! P55)
・生活習慣病がある方
疾患の予防効果
一概に糖尿病の人、動脈硬化が強い人、慢性腎臓病の人、心不全の人、などで許容される運動をお示しできないのも、運動により心血管イベントや運動障害を起こしてしまうリスクは人それぞれであり、そのため、病気への治療の補助としての運動療法の内容は個人個人で変わります。また、ひとつの疾患に限らず複数の疾患を有している可能性があり、栄養と同様でバランスを考えた運動が必要です。
基礎疾患に合わせたメディカルチェックを行う必要があります。
運動療法の効果
・肥満症
減量に対する運動療法は高い効果が示されています。同時に肥満の予防効果も示されております。
・動脈硬化症
体重の減少が多いほど、脂質代謝が良くなることが示されております。
・高血圧
体重の減少が収縮期・拡張期の血圧を低下させることが示されております。
・糖尿病
身体の活動量が高いほど糖尿病の発症リスクが低くなることが明らかになっています。また、運動はインスリン抵抗性を改善させ、血糖を下げる作用があります。しかし、糖尿病における運動の注意点に低血糖の発症があります。動悸、冷汗、意識がもうろうとする場合はその可能性があります。食前の運動は、血糖値が低下している中、運動によってさらに低下する恐れがあり、基本は食後1時間後に開始するようにしましょう。
(歩行数と血糖低下作用)
・ご高齢者の方
健康寿命(心身ともに自立し、健康的に生活できる期間)と平均寿命との差は約10年あるといわれております。平均寿命が延びるにつれてこの差が拡大すれば、健康上の問題だけではなく、医療・介護費の増加による費用の負担や介護する側される側の心の負担などが懸念されます。ぴんぴんころりとの言葉もあるように、人生の最後まで元気に生活を送ることができるよう、寿命を延ばすだけでなく、健康的に生活できる期間を延ばすことが課題とされております。近年話題となっている「ロコモティブシンドローム」「フレイル」「サルコペニア」という言葉があります。ロコモティブシンドローム、身体的フレイル、サルコペニアはお互いに関連があります。
健康寿命を延ばすために、運動は、サルコペニアやフレイルを予防・改善させ、ロコモティブシンドロームを進行させないようにすることが必要です。骨粗鬆症や変形性膝関節症などの運動器も問題とともに、現在かかえている内科的疾病の状態に見合った運動を行う必要があります。定期検査に加え、運動がリスクとなるような病態や疾患の検出、運動の許容レベルを確認するために、メディカルチェックを受けましょう。
・心疾患のある方
心筋梗塞後や心不全などの循環器疾患に対する心臓リハビリテーション(心リハ)は、心疾患の再発・再入院の予防効果が示されております。心疾患を発症し、その入院中のリハビリを経て、退院し社会復帰されたり、状態が安定された後も心リハの継続が必要です。運動は心拍、心臓の血流に影響を与えるため心疾患がある方は不整脈などのリスクを十分に評価し、負荷をどの程度までかけていいかを評価した上、監視下の運動療法が推奨されます。リスクが低い場合には、非監視下でのリハビリが許容される場合があります。適切な運動強度・時間など、心リハを自己管理できるようにする必要性があります。
・慢性腎臓病がある方
かつては慢性腎臓病(CKD)患者さんは「運動などの身体活動は控えるべき」とされていたことがありました。運動時には筋肉や心臓に血液を配分するため、腎臓への血流が低下し、短期的には蛋白尿が増加するなどの指摘があります。しかしながら、近年、運動療法によるADLや心血管機能の向上、精神的な効果などのメリットが重視され、「安定したCKD患者さん」に対しては運動療法を推奨されるようになりました。加えて、適切な強度の運動を長期的に行うと、腎機能は悪化せずにむしろ改善する腎保護効果も示されるようになってきました。そのため、運動療法は透析への移行を防止するための一つの治療法となりえます。一方、CKD患者さんの治療に食事療法、中でも蛋白制限の有効とされています。しかし、過度な蛋白制限やエネルギー量を確保できていないと、「サルコペニア」が進行し、筋肉量を低下させてしまうリスクがあります。CKD患者さんは運動療法と栄養療法を組み合わせ、透析への移行を長引かせるとともに、また透析に至った後も十分な筋肉量を保ち社会生活できるようにしていく必要があります。
マラソン前チェック表
運動強度について
厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準2013 より
「メッツ METs:metabolic equivalents」という単位は、酸素摂取量を基に数値化したものです。座って安静にしている状態が1メッツ(3.5ml/min/kg)とされ、普通歩行が3メッツに相当し、このように身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するか表すことができます。
消費カロリー(kcal)=1.05×運動量(メッツ×時間)×体重(㎏)で計算することができます。
個人個人の病態に合わせた運動強度の運動をしましょう。
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